成功の可能性が50%の時に、人は最もやる気が出る(書評:教育心理学)

達成動機づけの理論、学習性無力感、ソシオマトリックテスト、ピグマリオン効果など。


1977年の本です。自閉症を先天的なものではなく家庭環境のせいにするなど、情報が古い部分もありますが、おもしろかったです。

教育心理学
北尾倫彦、他

教育心理学 (有斐閣新書)

教育心理学 (有斐閣新書)

 

達成動機

人がやる気を感じるのはどんな時か。
まずは下のグラフをご覧ください。

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グラフ恐怖症の方。
大丈夫、簡単ですよ。

(ペイントで作ったので円になってますが、本当は放物線です。。)

 縦軸=やる気の強さ
 横軸=成功・失敗の可能性

を表しています。
左が成功率0%、右が成功率100%です。

真ん中が一番高くなっているのは、
成功と失敗の可能性が五分五分の時に、人は最もやる気が出るということを表しています。

これはアトキンソンの動機づけの理論をグラフにしたものです。

アトキンソンは子どもたちに輪投げゲームをさせる実験を行いました。ゲームをする前に、それぞれの距離について何%成功しそうに思うか答えてもらい、その後自由に輪投げを楽しんでもらったのです。
その結果、子どもたちが一番多く投げたのは、成功の確率が50%と答えた距離でした。

難しすぎる課題に挑戦する子どもは少数でした。
簡単すぎる課題に挑む子どももまた少数でした。

ここでいう成功の可能性とは、実際に成功する確率ではなく、どのくらい成功すると思うか主観的に判断した成功率だというのもポイントです。後で出てきます。

ところで、グラフの下半分は何でしょう。
これは、不安動機の強い人のグラフです。
このタイプの人は、できるかできないか微妙な課題には挑戦せず、簡単にできそうな課題、どうせできないと思う課題を選びがちです。

不安動機とは、やる気(達成動機)の反対のものです。
不安動機の強い人にならないためには、どうすればよいのでしょうか。

原因帰属

ある課題に成功(失敗)した理由をどこに求めるか。以下の4つに分類できます。

が良かった・悪かった
課題の困難度が簡単・難しい
努力を十分した・足りなかった
能力が高い・低い

①「運」は自分の内面とは関係ない外的要因です。そして不安定なものです。

②「課題の困難度」も外的要因です。しかし、安定したものです。

③「努力」は自分自身の内的要因です。したりしなかったり不安定なものです。自分の意志で統制可能なものです。

④「能力」も内的要因です。安定していて変えられない、自分では統制不能なものです。


成功経験の多い人
成功した理由を「高い能力」「高い努力」とみなします。
内的要因(自分自身)のおかげで成功できたという誇りを持てるのです。
また、失敗した理由を「努力不足」とし、将来自分で変更可能な前向きなものに設定します。

失敗経験の多い人
失敗した理由を「能力の欠如」という、これ以上どうにもできない持って生まれた内的要因として受け止めてしまいます。自分自身への恥辱を感じます。


成功、失敗の理由を何に求めるかによって、将来の自分への期待度が変わるのです。
期待度が高いと、次の課題に直面したときの「主観的成功率(何%成功すると思うか)」が高くなります。それにより、より高い課題にやる気を出せるのです。

原因帰属(成功・失敗した理由)と次の達成動機(やる気)をコントロールして、負のスパイラルではなく正のスパイラルになるよう調整することが可能ということです。

自分で意識して調整することもできますが、他者を導く方法としてより効果を発揮します。

学習性無力感(将来への絶望)

壁を飛び越えれば電気ショックから逃げられる部屋にいるイヌを、一定時間足かせして回避不能にすると、足かせを外しても逃げようとしなくなる。

セリグマンはこの研究から、「無気力状態は学習されるものだ」という理論を提唱し、学習性無力感と名付けました。

自分で統制できないという経験は、やる気を低下させ無力感を生じさせます。

学習性無力感は、社会のさまざまなところで発生します。
親、上司による押さえつけや、病気、けがなど。
実際の可能性は0%ではないのに、主観的成功率を0%だと感じてしまうのです。
努力するだけムダだ、と挑戦しなくなってしまう。

これを克服するには、

  • 失敗の理由を正しくとらえ直す
  • できる人と一緒に行動する(他のイヌが飛んでいるところを見せる)
  • 成功体験の多い人のグループに入る
  • 努力へのご褒美を与える

そうして成功体験を重ねていくことにつきるのです。

 

学級内の地位と性格(ソシオマトリックテスト)

(ソシオメトリー、ソシオメトリックとも)

話は変わります。
理想的な集団の作り方、集団内の地位と性格について。

ソシオマトリックテストとは、クラスで好きな人の名前を児童に書かせ、学級指導に役立てるというものです。

「好き」のところは、「嫌い」「一緒に遊びたい」「一緒に勉強したい」等基準はいろいろあります。

分かりにくいので表を適当に作ってみました。

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これを分析すると、
大野君は票数が多く人気がある。
まることたまこは相互選択している。
野口さんは孤立児である。
ということが分かります。

この表は○のみですが、×(排斥)の入るテストがあっても良いです。

選択されやすいのは、身体的特性、知的特性、情意的特性、人格的特性の目立つ人が多い。良い意味でも悪い意味でも、目立つ人が選択されやすいそう。

理想の集団は以下のとおり。

  • 一部の児童に人気が集中しないこと
  • 孤立児(誰からも選択されない)が少ないこと
  • 拒否的選択(排斥)が少ないこと
  • 相互選択と結合が多く見られること
  • 基準が違った場合に、変動があること(集団が流動的になる)


 地位と性格は相互形成的である


好ましい性格の人は、リーダーとして認められ安定感があり、さらに好ましい性格になります。
好ましくない性格の人は、低い地位にいる不安感により、さらに性格をゆがめてしまいます。

逆にいうと、地位を設定することで性格をコントロールすることができるのです。

孤立児を委員に任命し(先生の補助の上)役割を遂行させる実験を行った結果、児童の人気が上昇し、安心感により好ましい性格に変わったとのこと。

この方法は、会社の人間関係にも当てはまります。集団形成に有効とのことです。

(でも、このテストはなかなか難しいですよね。相当気をつけてやらないと暴動が起きます。調べたところ、このテストをそのまま素直に実行して炎上した学校が過去にあったようです。)

ピグマリオン効果

ギリシャ神話より。
ピグマリオン(ピュグマリオーン)王は、自分で彫刻した女性像に恋をしてしまい、生命を与えたいと乞い願い、ついに願望を成就し結婚できた。

ピグマリオン効果とは
教師に「この子は将来有望」という情報を教えると、
① 児童の知能指数や成績が上がった。
② 児童は好ましい評価を受けた。(知的好奇心が旺盛、適応が優れているとして)

つまり、教師は公平に振る舞っているつもりでも、期待する子とそうでない子に異なる扱いをしてしまう。児童に期待が伝わり、学習意欲や自信を持たせてしまう。

期待される子は、

  • 全体として褒められる回数が多く、叱られる回数が少ない。
  • 正答の後で褒められ、誤答で叱られない。
  • 質問や手がかりの機会が多い。
  • 行動を批判されることが少ない。

その結果、
期待される子は自信を持ち積極的になる。
期待されない子は劣等感をいだき、消極的で歪んだ性格になる。

ピグマリオン効果とは逆に、期待されないと成績が低下するという「ゴーレム効果」というものもあります。

人は、平等に扱っているつもりでも、期待が無意識に言動に現れてくることを心に留めておかなければなりません。

リーダーとしての教師

教師を集団のリーダーとして見た場合、どのような教師が理想か。

専制的リーダー
リーダーに依存してしまい、リーダーの称賛を得るために争いが起こる。リーダー不在時に怠ける。

民主的リーダー
一番良い。議論によって意思決定される。児童主体である。

放任的リーダー
目標に向かって協力することができない。軋轢が生じる。リーダーに対しても不満が出る。

おまけ↓

spicaintheforest.hatenablog.com




終わりに

私は、発達障害の人が「自分は脳の作りが生まれつき違うのだから健常者と同じようにはできない」と諦めてしまうのが、あまり好きではありません。もちろん健常者に合わせる必要はありませんが。人間は、生まれた特徴のまま、まっすぐ育っているわけではありません。この社会で生きにくい理由は、生まれつきの特徴のせいでもあるし、経験から学習したことが歪んでいたせいでもあると思います。誤って学習してしまったことや、できないことへの過剰適応は、自覚して修正することが可能だと思います。認知のゆがみを直すことにより、より楽に生きることができるのではないかと思います。でも、自分で勉強できないほど心が弱っている方もいます。IQが低めでアドバイスが咀嚼できない方もいます。そんな人に、押しつけがましくなく、分かりやすい言葉で、楽になれるヒントをあげられたらと思います。でも難しいです。私も若い時分は「何を偉そうに」としか思えなかったので。